焼き付く残照を経験で塗り潰すことが・・・「虹の女神 Rainbow Song」

残照

 結局1周回転状態で仕事をして、家のPCを2日ぶりに点ける午前3時。A社さんより頂いたCDからipodに落とした曲を聴いて、不覚にもモニターが滲んだ。今日は『虹の女神』の話を。観て3日経っても世界が滲むほどの作品だが、私は客としては特殊な立ち位置の類だと思うので、評価はあえて★★★★1/2。でも、恐らく他の方が観ても心に「くる」映画だと思います。
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 本作の主人公は、映像制作会社のADというハードな仕事に付いている、不器用な若者・智也(市原隼人)。物語は、彼が自室のベランダで不思議な平行型の虹を携帯で撮って、誰かにメールで送り、恐らくその持ち主である人物の携帯に留守電を入れるシーンから始まる。そんなある日、智也は友人からの電話で大学の同期・あおい(上野樹里)が飛行機事故で亡くなったことを知る。TVには、彼女の死亡を報じるニュース。彼は、あおいの元上司・樋口とともに、彼女の家に向かうことになるが・・・。
 智也とあおいは、大学の映画研究会の同期だ。本作のストーリーは、彼らの最悪の出会いから始まり、映研に入ったいきさつやあおいの作品「THE END OF THE WORLD」の撮影風景などを語る、「不可変のある結末から振り返り、過去の残像を切り取り、紡ぐ」という構造となっている。監督は、『ニライカナイからの手紙』の熊澤尚人。自身、大学時代は映研で映画を撮り、社会人になってからも自主映画活動を続け、『りべらる』(94)でぴあフィルムフェスティバル入選をした、いわゆる「自主映画出身監督」である*1。なるほど、物語の構成や劇中劇「THE END〜」の作風はじめ、「さすがその時代をそこで生きてきた人ですね」という、「映研的な香り」が漂う。ウチでいうなら、iron-scrapあたりが撮りそうな気がする映画だ。
 そう、何度かこの場では書いているのだが、大学時代の私は映研に所属していた。監督、脚本、撮影、編集・・・時と場合によっては出演や、果ては作曲までやったことが。高校・浪人までは全く映研の存在なぞ知らなかった私が映研に入ったのは、同じクラスになったbaohrと話している時に、女子の出演者が見つからないというK先輩の映画に出ることになったのがきっかけだ。映画の名前は・・・なんだっけ?アシモフのSF劇が元ネタだった気が。あ、『夜来たる』だ。ちなみに、その映画も本作の劇中劇と同じく「最後の日が近づいた地球」を舞台にした作品で、とある研究所の男女が主人公。相手役はbaohr。「ブチュー*2」こそないが、ガッシリ抱き合うシーンはありましたな・・・*3。本作と同じFUJICAを片手にどっぷり4.5年映研に浸かって、気がつけばこの業界*4。部室であおいが編集するシーンと同じようなフレーミングの写真が今もアルバムに残っている私にとっては、本作は「他人とは思えない」作品なのだ。
 話を映画に戻そう。では、本作は「映研関係者じゃないと感情移入が難しい、ピンポイント・マーケティングな映画」かというと、全くもってそんなことはない。「映画」というものは非常に便利なメディアで、「物語を紡いだ存在」であると同時に「それを作った時間を切り取り保存する保管庫」ともなると思う。本作では、物語のそこかしこにちらりと出てくる劇中劇をとあるタイミングで観客も観ることになるのだが、ここに隠されたものはなんだったのか。物語の冒頭で提示された結果の向こう側にある結末は何なのか。彼らが重ねた時間は何だったのか。・・・もう号泣ですよ。
 エンディングテーマの種ともこの楽曲も、エンディングと共に流れる映像も素晴らしく良し。岩井俊二プロデュースの「プレイワークス」第1弾作品だけあって、その切なくヒリヒリした世界観を継承していると思う。直球にヒリヒリさせるものはあまりないかもしれない。しかし、物語のラストで提示される「焼き付く青春の残像を塗り潰し、大人になりゆく契機」を見た時、それでも「消えない虹の残像の美しさ」は残って欲しいと思った時に、「ヒリヒリ」と似たものを感じるのだ*5
 そういえば、昨日、baohrがバンクーバーに旅立った。不謹慎な想像だが、彼が飛行機事故で亡くなった場合、どの作品を観たら「くる」か考えてみた。処女作の『月も笑ってる』?いや、たぶん『メイキング・オブ・砂素描』だな。もしくは後輩Nの処女作かラストの作品か*6。Nの映研ラストの作品は、和歌山は勝浦の海で合宿して撮ったものだったのだが、その桟橋から見た強烈な光線のなか輝く海の画が未だに脳裏に焼き付いている。私の人生には幾つかの「残像」があるが、その一つを映像の形で遺せたのは幸運だった。社会人になってからも強烈な「残像」として残る画があるが、残念なことにそれは映像にも画像にも遺せていない。
 それが脳裏から消えないことを、切に祈るばかりだ。

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*1:私は社会人になっても自分で作るということについては挫折してしまっているので、尊敬します。この熊澤監督やG社の某氏など、本当に

*2:虹の女神』を観た人には、この表現がよかろうて

*3:ひ〜!

*4:おかしい、私は法曹界を目指していた筈なのに

*5:そういう意味では、私が好きな「ブロークバック・マウンテン」「異人たちとの夏」他と共に、この映画も私のなかで同じカテゴリーに属するのだが

*6:じゃあ、私が死んだら・・・考えるだに恐ろしすぎる。観ないで処分してください、お願いだから。