有限なる時間を如何に生きるか?『RENT/レント』(改)

 先週末はあまりに疲れて16時間くらい寝てしまい、観たかった『RENT』にも『間宮兄弟』にも間に合わず、代わりに『ポセイドン』先行オールナイトを観てひっくり返った私。「今週こそは観るぞ」ということでチネチッタへ向かうも、レイトショー時間なのに窓口は大混雑。「本編始まっちゃうじゃん(泣)」とヤキモキしつつ、やっとこ窓口に辿り着き『RENT』を所望すると、窓口の生っチロいオニイチャンはかく語りき。
「『RENT』は満員です」
 げぇ。仕方なく『海猿2』を所望せむとしたその時、隣の窓口に「あの・・・『RENT』は一杯って訊いたんですけど・・・」とオズオズ所望するオニイチャンが。「お前さんもか。カワイソウに」と思いきや・・・席が取れたらしい。・・・ハァ?何故取れる!? まぁ、この性格ですから「ちょ、待てや。隣の窓口で取れて、なんでオマエは取れへんねん。」とネゴりますわな。
 かくして本編開始から10分近く経過して御入場。いきなり物語序盤の「♪RENT*1」のシーンにブチあたった。なんだこのド迫力は!圧倒される私を置き去りにして、ドンドン転がり続ける物語。そこから数分間は「とりあえずの状況把握」に必死だったわけですが。
 さて、『RENT』。舞台は1989年のアメリカはニューヨーク。イースト・ヴィレッジの古いロフトに住むミュージシャンのロジャーと映像作家のマークは、家賃どころか光熱費を払う金もない貧窮ぶり。恋人にHIV感染の末自殺されて以来引きこもりっぱなしのロジャーは、自身もHIVに感染。「命あるうちに名曲を書きたい」というのが夢だ。一方、マークは恋人のパフォーミング・アーティストのモーリーンを、あろうことかジョアンヌなる「女弁護士」に奪われたばかり。そんな散々な彼らの元に、友人の哲学教授・コリンズが新しい友人・エンジェルを連れてやってくる・・・。『RENT』は、彼らと彼らの「気のいい仲間たち」が織りなす、自由や夢、愛や人生を描いたドラマだ。
 本作は、1996年のオフ・ブロードウェイでの初演大ヒットを受けてブロードウェイに進出し、以来約10年に渡って愛され続けているロック・ミュージカル「RENT」を映画化したもの。“ロック”と言いつつゴスペルからR&B、サルサ、タンゴと、多岐にわたる音楽が入り交じっているのだが、入り混じっているのは音楽だけではない。この物語には元ネタがあるのだが、なんとそれはオペラ。プッチーニの「ラ・ボエーム」をベースとしているのだ。クラシックから“ニューエイジ*2”まで、まさに“るつぼ”たるNYを体現した作品なのだ*3
 今回の映画化は、初演年の96年に本作のミュージカル版を観て共感したという映画監督のクリス・コロンバスが熱望して実現。たっての希望により、6人が初演メンバーから引き続き同じ役を演じることになった。これには鳥肌もんの理由がある。
 この作品には、サントラ盤2枚で収録されるほどの曲数のオリジナル楽曲が流れる。主題歌の「♪Seasons of love」はじめ楽曲はいずれもとんでもなく秀逸で、特に私のような人間には胸に迫ること限りなしなのだが、これらの作詞・作曲と脚本は全てたった一人の手で行なわれている。それが本作の父、ジョナサン・ラーソンだ。自身、イースト・ヴィレッジでバイトに明け暮れながら売れないミュージカルを書き続けていた彼だったが、なんと初演のゲネプロ前夜に大動脈瘤破裂で急逝、作品の大成功を見ることなくこの世を去った。「初演のメンバーは彼の死を目の当たりにし、乗り越えている。これが彼らのパフォーマンスの燃料源になっており、経験を共にしたことからのみ生まれる豊かさ、深さ、理解を「RENT」にもたらしている」とキャスティングについてどこかで監督が語っていたのだが、本作の初演キャスト陣には他の誰がどんなにネームバリューがあって演技力や歌唱力があっても絶対に替えがきかない共通項があり、そしてそれが窺い知れるのだ。圧倒的歌唱力で繰り出される楽曲たちの歌唱力の向こう側にあるパワーから、彼らが醸し出す存在感、いや“実在感”から。
 しかし反面、彼らを使ったからこそ見えてしまったものもある。それが“年月”だ。不勉強ながら私は初演時の彼らを知らない。だから比較はできないのだが、年月だけは感じてしまうのだ*4。パンフの解説で「年齢の問題を越え」と読んで、続投メンバーのプロフィールを見てギョッとした。ロジャー演じるアダム・パスカルはじめ、彼らは皆69〜72年生まれ。私と同い年だったのだ。
 ふとそこで、「RENT」の初演年は私が大学を出た頃とほぼ同時期なのに気がついた。なるほどあの頃と今では、丸9年分の年を経て年輪を増やした代わりに色々なもの*5が殺ぎ落とされ、世紀末なんかヒョイと飛び越え21世紀になり、体重なんか10kgも増えやがり、あんまり変わり映えしないかと思いきやガラリと変わった。生活は変わっても、幸か不幸かこの業界ゆえに「周りに居る皆」が180度変わったわけではないのがせめてもの救いか。
 映画『RENT』は、「限りある時間をどう生きるか」「誰と生きるか」という元々のテーマを語るとともに、「如何に時を重ねるか」「如何に遡及して過去を切り取って封じ込めるか」を示したのではないかと思う*6クリス・コロンバスは、その頃のパワーを封じ込めることに見事に成功しただけでなく、その上「映画じゃなきゃできない要素を加えること」にも成功しているんじゃなかろうか。ロジャーは曲がりくねる山道を往き、マークは自転車を駆ってNYを駆け抜ける。カメラが舞台を飛び出したことで得られた映像には、映画のラストで流れるロジャーの作ったフィルムと同じくらい爽やかかつメランコリックで胸を衝く何かが詰まっているのだ。かつて(もしくは今)映画や演劇とか音楽とか、モノを作ることに関わってた同年代の人々には是非観て頂きたき、感想を聞きたき一本です*7
 限りなく優しいラストまで、ただただ真っ直ぐに紡がれているこの映画。大感動の帰途の途中、パンフを読んだ私はとある大チョンボに気がついた・・・見逃したオープニング・シーン、この映画のキモの一つやんけ!一度観た人も、映評とか読んでからもっかいこのシーンを観ると、感じるところが多いのでは・・・アタマ10分見逃した私はもっかい観に行かなきゃです。DVDも絶対買いですよ。永久保存版でどうぞ!

Rent

*1:いつもは映画タイトルは『』、非映画タイトルは「」と区別してるのですが、今回は混乱しそうなので、曲名にはタイトルのアタマに“♪”を付けることにします。

*2:死語・・・というか誤用?

*3:行ったことないけど

*4:特に続投組で紅一点のモーリーンなどは

*5:体力とか活力とか気力とか

*6:これは、最近よく問われ、考えることでもあるんだけど

*7:いや、万人がホロリとできる、判りやすいストーリーなのですが。ちなみに私は号泣でした