続・SASツアー考察

今回のSASツアーのうち私が参加した全てで、必ず桑田さんがお客たちに訊いていた質問がある。
「この中で、今回初めてサザンのコンサートに来たという方、手を挙げてください」
どの会場でも大体1/5〜1/4の人が手を挙げる。札幌はちょっと多かったかもしれない。ここ数年のタイアップソングのシングルカット三昧が影響しているのか、ここ2年ほどのSASのツアーは、どうも「いちげんさん」や「ライトユーザー」が多いような気がする。恐らく彼らは「ミス・ブランニューデイ」や「LOVE AFFAIR」の曲固有の合いの手も、「イエローマン」や「愛と欲望の日々」の曲固有の振りも知らない。でも、帰り際のお客人たちは皆非常に満足げで、存分に楽しんでいたと見受けられた。思うにそれは、SASのツアーが非常にマーケティング的視点に基づいた、またライト層に比重を置いた、「一般性かつエンターテイメント性重視」の「ショー」だからではなかろうか。どの会場でも発される桑田さんの質問は、そのマーケティングリサーチの一環なのではなかろうか。
ちなみに今回はじめてSASのコンサートを見たAも、非常に楽しかったらしい。このAが、会場を出た後に非常に面白いことを言った。
SASは今まで『桑田佳祐というちょっと面白いオヤジが好き勝手やってるバンド』だと思ってたら、『究極にエンターテイメントとして計算された動きでもって作られているバンド』だということが解った」。
今回も桑田さんはしょっぱなから「変質者でございまーす!」と言いながら現われ、モニターに向かって色々ポーズをキメ、ガンガン動きながら歌う。しかし、確かにモニターのフレーミングはキッチリ理解して、いつ、どこで、どのアングルで、どんな感じで自分が映ってるか、完璧に解ったステージングをしていた。フレームインもフレームアウトも完璧。もちろん台詞もバックダンサー一人一人の動きすらも、完全に計算ずくだ。つまるところ、「エンターテイメント」として構築された「舞台=ショー」なのだ。
ちなみにこの「エンターテイメント」具合は、ステージングの部分だけではない。セットリストにも如実に表れている。ここで以下に今回のセットリストをご開陳↓

【「みんなが好きです!」セットリスト】
1 Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)
2 MY FOREPLAY MUSIC
3 希望の轍
▲(MC)
4 神の島遥か国
5 セイシェル〜海の聖者〜
6 愛と死の輪舞(ロンド)
7 JUMP
8 愛と欲望の日々
9 別離(わかれ)
10 ごめんよ僕が馬鹿だった
▲(※01)
11 リボンの騎士
12 YOU
13 海
14 栞(しおり)のテーマ
15 Bye Bye My Love(U are the one)
16 からっぽのブルース
17 恋するレスポール
18 夢と魔法の国
19 キラーストリート
20 限りなき永遠(とわ)の愛
▲(※02)
21 ロックンロール・スーパーマン(Rock'n Roll Superman)
22 ミス・ブランニュー・デイ
23 マチルダBABY
24 イエローマン〜星の王子様〜
25 BOHBO No.5

■アンコール
U1 勝手にシンドバッド
U2 TSUNAMI
U3 LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜
U4 心を込めて花束を

今回のライブのセットリストはかなり秀逸、というのが私の印象だ。
SASライブに特有の「メジャー曲ではないけど、ノリの良い通好みの楽曲から始まる」というセオリーを踏襲しつつ(1、2)、ガツンと3で盛り上げ。ここでMCを挟んでキラーストリートの紹介をしてからキラーストリートの楽曲を幾つか。アルバムの中でもノリが良くファンの中でも人気の高い楽曲で掴んで、ちょっと疲れた頃に原坊の曲(※01)で一時休止*1
で、12〜14というシットリ系のSASらしい&夏らしい名曲群と15でオールドファンをさんざ喜ばせた後で、続いて「キラーストリート」第2陣へ。でも、そこでも19&20と泣かせる曲2連発で小休止ゾーン形成するなど、観客のテンションの上げ下げが実に上手い。
で、21から25まで休むことなくドッカンドッカン。花火は上がるわ、合いの手は入れないかんわ、振り曲は満載だわ、もう大騒ぎ。ここでこんなけ盛り上がれば、いちげんさんでも周り見ながら盛り上がれるってもんで*2。で、休んだ後にアンコール。
ちなみに今回のは「キラーストリート」リリース直後のツアーだから、その楽曲も14曲ほど入っているけれど、それ以外の曲は、1の他数曲を除いてほぼ「海のYeah!」や「バラッド3」の収録曲。ゆえに、今回のツアーのセットリストは、先日の名古屋の時に書いたように「ベスト盤的内容」だと思う。極めて一般性&エンターテイメント性重視なセットリストですよ、これは。これならいちげんさんやライトユーザーも楽しめ、かつオールドファンも喜ぶわな。
そう考えたところで、先日東京ドームの後に某サザン狂の友人と話した疑問がすっぱりクリアになった。疑問というのは、「今回、なんで『FRIENDS』をやらなかったんだろう?」というもの。『FRIENDS』は、桑田さんが確かどこぞのインタビューで「SAS史上でもかなりの名作」と言っていた曲。恐らく入るとしたら、『TSUNAMI』の代わりの位置くらいに入る曲だったのではと思う。しかし、「エンターテイメント性重視」を考えると、これが入らないのは「むべなるかな」だと思う。なぜか。『FRIENDS』は確かに名曲だけど、如何せん長い。また、元々は地球ゴージャスの「クラウディア」用に書き起こされた楽曲のため、あまり知っている人は居ない(だろう)。思うに、この曲を入れると流れを断ち切ってしまうと判断されたのではなかろうか?ゆえに、名曲とは言われないけどミリオンには乗った『TSUNAMI』があそこで来たのだろう、と思う。
この「エンターテイメント」なSASのツアーを、Aは「ヅカや歌舞伎みたいなもんなんだろうね」と評した。私はこれまた言い得て妙、と思う。決まったところで決まった合いの手を入れ、MCから何からが全て完璧な調和のうちに流れてゆく。(それだけじゃないと思うけど)枠を破ることに「ロック」の魂があるとすれば、SASの調和はロックではない。楽曲についても同様に、確かにロックの魂とロックの記憶、そして桑田さんの源流にあるブルース、あと歌謡曲やらラーガやら雑多な血が混じってはいるけれど、出来てきたSASの楽曲は、ロックというよりは「非常にマスに向けたポピュラーミュージック(=POPS)」の側面が強いと思う。だからSASは「ROCKでなくPOPS」だと思う。しかし「POPS」は「POPS」でも、「TOP OF THE POPS」であるとも思う。
昔、桑田さんが自分たちの音楽についてこう言っていたらしい。
「売れなきゃいけないんです」*3
楽曲についてもステージングについても同様に、売れるためのマスに向けたものを、非常にプロフェッショナルに構築する。音楽性とか作家性とかではなく、マーケティング&エンターテイメントに徹する。それも完璧に。だからこそSASは27年もトップを走りつづけることができたんだろう、とAと話した。でも、エンターテイメント性だけではだめなんだろうなぁ。やりたいことは外さないでいかないと売れないんだろうなぁ。これは非常に難しいことだと思う。
ちなみにこれは、我々がメシを食っている映画にも言えることなんじゃなかろうか。くしくも先日、映画の側面からこれについて話をしてこれまた楽しかったのだけど、すっかり話が長くなっちゃったので、この話はまた後日。

*1:ここでトイレにたったAは、トイレが大行列で驚いたらしい。その上喫煙スペースも一杯だったそうで。「2.5〜3Hの長丁場を乗り切るインターミッションがここで設定されてます、それを客も解ってますって感じの混み具合だったよー」とはAの弁。確かに私もここで一時休止でしたが。

*2:私はやっぱりお祭り好きなので、このくだりは非常に好き。恐らく30日もここで大暴れですわ

*3:「売れるものを作らなきゃいけないんです」だったっけ?